後編|ベッド背上げのまま身体がずり落ちない姿勢をキープするポジショニング【vol.017】

前回は、
ベッドに寝ている人を背上げした状態で、長座位姿勢が崩れることなく
維持するポイントが3つあることを説明しました。

・背部マットレスに段差を作りコントゥアーする
・坐骨を受け骨盤の滑りを止めるアンカーを設ける
・膝は伸ばさず軽く曲げる

この3つには、取り掛かる順番があります。

電動ベッドで背上げをしたら
最初に「背抜き・尻抜き・かかと抜き」をします。
これは当たり前にやって欲しいので順番には含めません。

ここから3つのポイントを実行します。

はじめに、身体全体のズリ落ちを抑えるため
骨盤のずり落ちが起こらないように安定させる「くさび」を打ちます。それが
⇒1)坐骨を受け骨盤の滑りを止めるアンカーを設ける

次に、かかとへの圧迫を防ぎ、骨盤を立て脊柱を伸展しやすくするために
⇒2)膝は伸ばさず軽く曲げる

土台が整ったところで最後に、上半身の正しい姿勢を作るために
⇒3)背部マットレスに段差を作りコントゥアーする

では、この順番に具体的な方法の説明に入ります。

●坐骨を受け骨盤の滑りを止めるアンカーを設ける
———————————————————————-

アンカーとは、船の「いかり」です。
ここでの意味は、骨盤の動きを固定するくさび、を指しています。

アンカーが、骨盤のずり落ちをせき止め、
長座位姿勢を安定させる土台になります。

電動ベッドの膝上げ機能を使って膝上げしても
アンカーの役目は果たせず、骨盤の動きを止めることはできません。
アンカーは坐骨の前になければ意味がありません。

私はアンカーを「土手」と呼んでいます。
この呼び名の方が、いかにも骨盤をせき止める
ダムのイメージにピッタリだからです。

よって、これより以降、アンカーを「土手」と呼びます。

土手の要点は、設置する位置、斜面の角度、高さ、の3つ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

○土手を設置する位置
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
土手は坐骨の直前に作ります。
坐骨から坐骨結節にかけて直線状になっている部分、
骨盤を正面から見た時にハの字に観える部分に土手の斜面を当てます。

実際のクッション挿入においては
太ももの付け根ギリギリまで挿入するようにします。
坐骨のとがった部分はクッションに乗せないようにします。

○土手の斜面の角度
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
骨盤が真っすぐ立つように角度を調節します。
見た目には、電動ベッドの背上げした床面と
前後方向の骨盤の傾きが平行になるようにします。

斜面の角度が小さいと坐骨がくさびを乗り越えてしまいますし、
斜面の角度が大きすぎると、骨盤の後傾と、
太もも付け根に圧迫が出るので注意してください。

実際のクッション挿入においては
断面が楕円になる棒状クッションか、
三角柱クッションで角度をつけます。

○土手の高さ
~~~~~~~~~~~~~~
前述したように、土手を当てる個所、
坐骨から坐骨結節にかけての直線部をカバー出来れば良いので
高さは5cm以下、幅60cmあれば足りるでしょう。

マットレスへの沈み込み具合にも影響されるので
骨盤が立っているか、太ももへの圧迫はないか、
膝が上がり過ぎていないか、などに注意して設定します。

既製のクッションで、初めから角度を持った三角形のクッション、
お尻周りをぐるり囲むように弧をかたどったブーメラン型のクッション、
などが土手作りにお勧めです。

●膝は伸ばさず軽く曲げる
———————————————————————-

膝は伸ばさず、軽く曲げるようにします。

膝を曲げた方が良い理由は、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
骨盤が立ちやすくするための予準備として有効だから
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
です。

ハムストリングが短縮している、股関節の可動域が狭い、方は
大きく膝を曲げる必要があります。

膝を曲げることでハムストリングを緩ませて
その分骨盤が前傾出来る余裕をつくるためです。

クッションだけでひざを曲げようとすると
対応が難しい場合があるので電動ベッドの膝上げ機能を併用します。
ですから電動ベッドは膝上げ機能が独立して動かせる
3モーター以上を利用した方が良いですね。

クッションだけで膝が軽く曲がるようにする時は
太ももの付け根に作った土手のすぐ後から足首までをクッションに乗せます。
かかとはクッションに乗せません。

こうすることでかかと部への圧迫が開放され、床ずれ予防にもなります。

出来れば一つの大きいクッションが望ましい。
小さいクッションを何個も使うと段差ができて
滑らかな面が作れないからです。

かかとが直にマットレスに当たらないようにクッションの厚みを調節したら、
脚の全重量をクッションで均一に分散して受けるようにします。
足底は尖足予防にクッションを当て、足首を90度程度に曲げて下さい。

注意としては、
決してひざ裏で重量を支えるようにクッションを当てないこと。
ひざ裏は何も当てずフリーにしてください。

理由は、感触が悪くなるから、神経を圧迫するから、です。

余談ですが、仰臥位で寝ている時も、
クッションに脚を乗せてかかとを浮かせた方が快適なのでお勧めです。

●背部マットレスに段差を作りコントゥアーする
———————————————————————-

最後に、坐骨から上の、腰から頭にかけた
上半身のコントゥアー作りをします。

コントゥアーとは、「~の形に沿っている」の意味です。
上半身の身体のカーブに沿ったマットレスの段差とカーブ作りをします。

上半身の理想的な姿勢は、
脱力してマットレスに身体を預けても骨盤が立ち、脊柱が伸展、
立位の姿勢と同じようになっている状態です。

その上で、頭は脊柱の上にバランス良く乗っかり、
首や肩の筋肉に緊張なく、自然に顔が正面を向いている状態です。

この姿勢を目標にします。

円背や腰が曲がっている、枕がないと頭を支えられない方と
背筋が伸ばせ、枕なしでも頭が支えられる方とでは、
方法が違ってきますが基本は一緒です。

調整した姿勢の良し悪しは頭の状態を見て判断します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
顔が正面を向いて、首、肩周りの筋肉が強張らず
リラックスしていれば良好のサインです。

悪い状態のサインは、顎が突き出ている、顔が下を向いている、です。

大きくこの判断基準で調整します。

はじめに仙骨後ろにクッションを挿入し
仙骨を前に押し出し、骨盤を立てます。

仙骨後ろに挿入したクッションによりマットレスに段差が生まれ
お尻の凸部が収まる逃げの窪みができます。
同時に胸椎後ろの凸部が収まる窪みができます。

この段差で脊柱のS字カーブを実現します。
後は頭の状態を観察して、背上げの角度で微調節します。

上半身が横に倒れてしまう方は
横の曲面作りをします。

肩甲骨より下の位置で、
体幹を両脇から挟むよう三角柱クッションの30度の角を挿入します。
これで体幹部と胸部下部が落着き、横倒れがなくなります。

注意点としては、肩甲骨より上にクッションを挿入しない事。
肩甲骨より高くクッションを当てると
肩の後方への自由度を奪い、果ては腕の自由度を奪うので止めて下さい。

しかし、マットレスと身体の間にクッションを入れる方法だと
滑らかな曲面が作れません。
どうしても異物をはめられた感じが残り心地よくない。

そこで私が提案し、介護術セミナーで体感していただいているのが、
マットレスの下にクッションを挿入する方法です。

●マットレスの下にクッションを挿入して、滑らかな曲面をつくる。
———————————————————————-

この方法だとマットレスにきれいな曲面が作れます。
実際に試していただくと皆さんとても感触が良いと言って下さいます。

もともと床ずれ予防効果の高いマットレスを使用しているはず。
ならばその機能を活かしてマットレス自体をカーブさせた方が良いのです。

そうすれば挿入するクッションは
高価なポジショニング専用である必要はなく何でも構わない。

身近にあるバスタオル、毛布、枕、座布団が使えます。
お金を掛けずに出来ます。
一度お試しください。

この方法が適さないのは、アンカー=土手づくりだけです。
土手だけは、身体とマットレスの間にないと作れません。

要領が解からない時は、私にご相談下さい。

———————————————————————-
以上、ここまで。

いくらかポジショニングの要点を詳しく説明できたと思いますが
説明が稚拙な上、図や写真がないので
どれくらい伝わったかな?と正直不安です^^

Follow me!