車いす用クッションの逆向き事件簿【vol.019】

私が体験した、車いす用クッションの向きが
逆になって使用されていた事件を二つ、ご紹介します。

一つは、デイサービス帰りの連続逆向き事件。
もう一つは、クッション中身の逆向き事件。

二つの事件を反面教師に、
使用しているクッションの向きが合っているか、
注意を払っていただきたいと願いつつ、お送りします。

●デイサービス帰りの連続逆向き事件
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事件は、デイサービスを利用されている
Aさん(70代男性)に降りかかりました。

在宅で車いすを利用されているAさん。
Aさんは、脳卒中で右半身に麻痺があります。

普段、左脚で足こぎをされるので、それに対応した
コントゥアータイプのクッションを利用されています。

2006年5月、クッションの向きが逆になる事件が
立て続けに4回発生しました。

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【注釈】
「コントゥアー」とは、
「~の形に沿っている」意味の英語「contour」。
時に、コンツァー、コンター、カンツァーなどと言われますが、
外来語表記の違いだけで、同じです。

クッションでコントゥアーと言えば、
座面の形が、お尻と太ももに沿った形の曲面をしている、
ことを指しています。

コントゥアーしたクッション座面は
フィット感が向上し、体圧の分散が図られ
骨盤の位置が定まり、座位姿勢が安定するメリットがあります。

それゆえ、向きを間違えると
身体に全くフィットしない曲面上に座ることとなり
姿勢崩れを引き起こし、利用者に悪影響を与えてしまいます。
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コントゥアータイプのクッションは二つあって
見た目に凹凸がある曲面を持ったタイプと
見た目には平面だけど、
座ると沈み込みに高低差が生まれるタイプがあります。

今回は、見た目に凹凸のあるタイプで起こりました。

このタイプのクッションは外観上、
坐骨が収まる個所は窪んでいて、
両太ももが乗る個所は盛り上がっているのが確認できます。

最初のクッション逆向き発生は、
Aさんが腰痛を訴えたことで見つかります。

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1回目、発生。
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Aさんの奥さんから電話が入ります。

「主人がデイサービスから戻って来たら、
腰が痛い痛いと言うんです。
もしかして車いすが合わなくなっているんでしょうか?」

それまでAさんから腰痛の訴えはありませんでした。
「急にどうしたんだろう?」

私は、すぐに訪問してお話を伺っていました。
Aさんは介護ベッドに横になっています。

何気なく車いすを見た時、
クッションの向きが逆になっていることに気付きました。

奥さんも驚かれ、自分は逆にした覚えはないし
デイから戻って(主人は)そのままベッドに横になり
クッションはいじっていない、とおっしゃいます。

何より、奥さんはクッションの向きを
正しく解かっていらっしゃいます。

「この状態で長い時間座っていたとしたら、お尻が前に滑り
腰が曲がって腰痛になっても不思議はないと思います。
どうしてクッションの向きが逆になっていたか解かりませんが
2日後のデイサービス利用まで、少し様子を見ませんか?」

私の提案に奥さんも納得され、
その日はクッションの向きを元に直して帰りました。

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2回目、発生。
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その2日後、Aさんの奥さんからまた電話が入ります。

「さっきデイから戻った主人が、また腰が痛いと言うんです。
それで、クッションを見たら向きが逆になってます。
今朝送り出した時、クッションの向きは合ってました。」

まだ、デイがクッションを逆向きにしている確証はありません。

今度は、クッションカバーに白マジックで「前」、「後ろ」と書き、
はっきりと向きが解かるようにしました。

同時に、Aさん担当のケアマネさんに、これまでの経緯をお話し、
それとなくデイの方に注意を促していただくようお願いしました。

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3回目、発生。
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そして週明けのデイサービスの日、
奥さんから電話です。

「主人がデイから戻ってきました。
また、クッションが逆向きです。」

状況証拠だけでしたが
どこで逆向きにしているか、疑う余地はありませんでした。

私が、Aさんの通うデイサービスに直接に連絡を入れると
責任者と名乗る男性に電話が取りつがれました。

これまでの経緯をお伝えし、スタッフの方々に
クッションの正しい向きを教えて欲しい。と依頼しました。

すると、男性はこう言いました。
「うちのデイでは、逆向きにしていません!」

その一言で、抑えていた感情が噴出、
「それなら私がお宅のスタッフ指導に伺いましょうか!」
と強い口調で言ってしまいました。

電話口で一触即発状態です。

最後は、スタッフに話しておきますから、と言うことで話がつき、
その後4回目の逆向き事件が発生しましたが
5回目が起こることはなくなり、
Aさんも腰が痛いとはおっしゃらなくなりました。

クッションを逆にしてた人は、
Aさんが車いすを離れた際、入浴中とかに
好意でクッションにたまったゴミを払い落そうとして
クッションを外したかも知れない。

クッションを車いすに戻す時、
体重の掛かるお尻の下に厚みのある方が来るのだろうと思い込んで
向きの表示にも気付かずセットしただけかも知れない。

何も知らなければ、そうするかも…。
事件解決後、そんなことを思いました。

にしても、知らない、とは罪なことです。

●クッション中身の逆向き事件
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この事件は、ごく最近の出来事です。

前述の事件でコントゥアータイプのクッションには
二つあるとお伝えしました。

今回の事件は、もう一つの
見た目には平面でも、座ると沈み込みに差が生まれるタイプ
で起こりました。

カバーが掛けられた状態で向きは合っているのに
中身のクッション材の向きが前後逆に挿入されていました。

外見からは全く気付きようがありません。
見つけたのは偶然であって、奇跡でした。

昨年の2012年10月。

ある介護施設さんでモジュラータイプの車いすを購入したと言うので
見学に伺いました。

凄いですねー、などと言いながら車いすを見ていました。

一緒に購入したクッションをいじっていた時の事です。
私は何気なくカバーを開け、中身を取り出そうとしました。
その時、カバーの向きと中身の向きが逆になっていることに気付きました。

見学に立ち会って下さった施設の方に確認していただき
すぐスタッフ全員に周知徹底した方が良いですよ、と提案しました。

中身のクッション材は坐骨を納める個所の素材を変えていて
目視でその違いがはっきりわかるのですが
中身自体に前後の向き表示はされていません。

たまたま、クッション材を取り出した人に、
コントゥアーの知識がなければ
向きなど気にせず挿入してしまう可能性があります。

これは怖いなぁ~と思いました。

●事件の問題点を整理
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二つの事件に共通する問題点には

・クッションの進歩に介護現場が追いついていない。

現実が見えますね。

それ以上に、作る側と販売する側には重大な責任があると思います。

1)ちゃんと相手に説明する。
2)カバーと中身の両方に向き(前後・左右・上下)を表示する。
3)根本的には、間違いが起きないよう工夫する。

上記1)と2)は、介護現場でスタッフ教育、
マジックで向きを手書きするなど、すぐにでも対応できます。
3)は、クッションメーカーさんに至急対応してほしい所です。

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