折りたたみイスはシーティングのエッセンスが一杯【vol.128】
シーティング的視点で
身の回りにある「椅子」を観る
7回目です。
今回は、学校や公民館で使用されている
スチールパイプ製「折りたたみイス」を取り上げます。
▼折りたたみイスは
シーティングのエッセンスが凝縮されてますね。
観れば観るほど奥が深い(笑)
あのシンプルな形の、どこに
どんな工夫が詰まっているのでしょうか。
一緒に観ていきましょう!
折りたたみイスは沢山種類があり
寸法も多少違います。なので、
今回、コクヨさんから発売されている
CF-M7モデルを参考に話を進めたいと思います。
これを選んだ理由は、
標準型車いすに近いサイズだったからです。
主な仕様を以下に列挙します。
後で計算に使いますので
記憶に留めておいてください。
1)座幅405mm
2)座面奥行き405mm
3)前座高415mm
4)シート角度3度(図面より測定)
5)後座高395mm(シート角度より算出)
6)全高740mm
7)背もたれ高345mm(=全高740-後座高395)
8)背もたれ縦幅135mm(図面より測定)
9)背もたれ角度107度(図面より測定)
この寸法と角度を観ただけでも
人間工学に配慮した仕様であることが分かります。
1)~5)までは、
標準型車いすでも多くみられる寸法ですね。
▼注目していただきたいのは
最後の7)、8)、9)
背もたれの高さ・縦幅・角度です。
標準型車いすの「それ」とは違います。
標準型車いすの場合、背もたれの、
高さは400mm
縦幅は400mmm
角度は93~100度
であることが多いですね。
折りたたみイスの
背もたれの高さ・縦幅・角度は、
体幹固定筋をリラックスさせても
背筋の伸びた座位が実現可能な仕様になっています。
とは言え、
一番母数の多い体格に合わせた仕様ですから
当てはまらない方もいます。
それは前提としてありますので
ご承知おきください。
先ず、
水平な座面上の座位において
背もたれに寄りかからないで
アップライトな姿勢で座る時を考えてみます。
▼「アップライトな姿勢」とは
重心線が坐骨と重心を通っている状態の姿勢です。
別の表現をすると
頭のてっぺんを糸で吊られているように感じる
ピンと背筋の伸びた姿勢です。
アップライトな姿勢の時
第10胸椎の傾き角度は約100度になっています。
後方に10度傾いているんですね。
第10胸椎は重要なキーワードですよ^^
しかも、
第10胸椎の前方には
座位における上半身の重心があります。
バランスを取るには重心を支えるのが一番。
背もたれを設けるとしたら
第10胸椎の後ろがいいんですね。
しかも、第10胸椎は、隣り合う第9胸椎と
比較的直線的に繋がっているので
面で支えるには好都合な箇所です。
▼ここで第10胸椎の位置を確認しておきますね。
脊椎は、頭部に近い部位から
頸椎(7個)、胸椎(12個)、腰椎(5個)、仙骨、尾骨
で構成されています。
頸椎に近い方から第1胸椎、第2胸椎、第3胸椎、…と数え
10番目が第10胸椎です。
身体を正面から見ると
みぞおちの少し上の高さにあります。
▼アップライトな姿勢だと
頭部、上肢ともに機能的に動ける状態にあります。
この姿勢を維持するには
体幹固定筋を働かせ続けて
重心のバランスを保ち続けないといけません。
安定感やリラックスはなかなか得にくいですね。
少しは体幹固定筋を休ませて、
リラックスしたければ
背もたれに寄りかかるのが良いですね。
▼寄りかかるにしても
丁度良い傾き角度があります。
それが10度と言われています。
10度より傾きが小さいとまだ不安定です。
10度を大きく超えて傾けると
安定感が強くなりすぎます。
上体の動きを抑制してしまうばかりか、
頭部と上肢の動きも妨げてしまいます。
上体・頭部・上肢の機能的な動きを妨げずに
安定感があって、リラックスできる傾き角度。
それが10度と言われています。
アップライトな姿勢から後方へ10度なので
つまり、100度+10度で110度です。
110度の角度で第10胸椎を
背もたれがサポートしている状態が好ましいのです。
では、
折りたたみイスの仕様をもう一度見てみましょうか。
▼背もたれ角度は?
107度ですね^^
シート角度が3度付いていますので
水平からの角度は、
107+3で110度になります。
ちゃんと考えた角度になってるんですよ~(笑)
▼背もたれ高と第10胸椎の高さは合ってるか?
折りたたみイスのバ背もたれ高は345mmです。
縦幅が135mmあるので
高さ210mm~345mmの範囲内
ここが第10胸椎をサポートするエリアになります。
人の身体の寸法で
座位時の第10胸椎の高さを調べてみましたが
集計した数値は見つけられませんでした。
シーティング関連の文献・レポートによると
110度の背もたれに寄りかかって座った時は
平均で310mmの高さにあるようなんです。
これを信じれば、背もたれの範囲内に
入っていることになります。
背もたれ高と第10胸椎の高さが
ちゃんと合ってますよね^^
以前「円背の方の背もたれ」の時にも書いたと思います。
標準型車いすの背もたれは、
重要な要素である「高さ(位置)」と「角度」が
人の身体にマッチしていないのです。
だから、ちゃんと座れない。
理由は色々あります。
折りたたみするためとか、ね。
しかし、本質はそんなことではなく
「座る」ためのイスではないから、なんです。
折りたたみイスの方が「座る」に関してはマシですよ(笑)
▼折りたたみイスの凄い点はもう一つ。
お尻の後ろががらりと空いていること。
お尻の後ろが空いてると、
・お尻を前後に動かせます。
・腰椎がフリーに動かせます。
お尻を少し引けば
アップライトに近い姿勢もとれるし、
お尻を少し前に出せばリラックスして
背もたれに寄りかかることも出来ますね。
背もたれに寄りかかったまま上体を前屈すると
前湾していた腰椎は後湾します。
背もたれに当たっている
第10胸椎を支点にして
腰椎が前後に湾曲して動きます。
後ろが空いてることで
この動きが阻害されずフリーになります。
これが良い。
ランバーサポートがよろしくない理由は
上体が前屈した時に腰椎後湾の動きを阻害すること。
ランバーサポートが腰椎圧迫として作用するからです。
姿勢は常に変化するのが当たり前です。
動きがあることを許容しないといけません。
「サポートする」を名目に
抑え込むのは好ましくないですね。
たかが「折りたたみイス」
されど「折りたたみイス」
シンプルな物ほど奥が深い。