ごくごく普通に介護・看護の現場で見かける車いすへ座る着座介助の方法を見てみましょう。
解りやすくするために車いすを描いてません。
介護界のオーソリティの方も推奨する介助方法です。完璧です。
しかし、「ん?座らせておしまい?・・・これで終わりにされたら、座り直しのできない人にとっては辛いなぁ・・・」
このまま放って置くと、床ずれ発生の危険があるし、姿勢崩れを早めてしまう可能性があります。利用者が座り直しをしているかどうか、よく観察してください。そして、座り直しをしていないと解ったら、これから説明することを十分に注意して、更に追加の介助をしてください。
それでは、これから示すイラストに従って皆さんも同じ動作をしてみてください。背もたれあり・ひじ掛けなしのイスをご用意ください。それでは参ります。
最初にお尻に当てている手は左側のイラストのように手の甲を坐骨の位置に合わせます。このまま椅子に着座します。坐骨が指に当たって痛たいのを我慢しながら、上体を起こしていきます。最後に背もたれに寄り掛かります。
どんな感じでしたか。
指の上を坐骨が、ゴロゴロと動いて行くのが解りましたか?
これが何を意味しているか、説明します。
動いたのは骨盤です。動いたと言うか、回転したと言う方があってますね。皆さんにやってもらったことをイラストにまとめると次の様になります。
イスに座る時は、上体を前に屈めてお尻を突き出すようにしてから徐々にひざを曲げます。お尻が椅子の座面に着いたら今度はお尻に体重を移し、上体を少しずつ起こしていきます。最後に背もたれに寄り掛かり、ホッと軽く力が抜けて座ります。
この時に骨盤は、股関節を軸にして回転をしています。これを「骨盤ローリング」と名付けました。
坐骨は、骨盤ローリングにより初めに着地した位置からどんどん前方へ移動します。上体が背もたれに寄り掛かる頃には、5cm以上移動するのではないでしょうか。
しかし、動いたのは坐骨です。手の上に乗っていたお尻の皮膚は摩擦があるので滑らずに最初の位置のまま留まっています。
この状態を、骨盤を拡大したイラストで説明します。
坐骨と皮膚の間に線を引きます。繋がっていると思ってください。この線が骨盤ローリングによって次の絵のようになります。初めは緩んでいたのに、骨盤に引っ張られるようにピーンと張っています。
強い、引きちぎるような力・せん断力が発生しているのです。
臀部の皮膚と坐骨との間にある内部組織(筋肉・皮下脂肪など)が、骨盤ローリングにより強い力で引っ張られているため、毛細血管は潰され血流の悪い状態を作ってしまったのです。つまり、床ずれを作りやすい環境を整えてしまったわけです。
このままでいると普通の人ならしびれを感じ、もぞもぞと身体とお尻を動かして座り直しをして快適な状態を自分で作ることができます。
でも、介護の必要な、まして自分で動けない方はそれができません。
それでも辛いので何とかこの状態から逃れようとします。少しずつ身体を動かして楽になろうとしますが、どんどん姿勢は崩れていきます。崩れた姿勢を立て直す筋力はありません。こうしてどんどん姿勢を崩し、ズッコケ座りになります。きちんと座らせてもらっていればもう少し良い姿勢で座っていられたものを、座らせた後が悪かったばかりにズッコケ座りを早めてしまうことになるのです。挙句、「この方は座位姿勢でいるのは無理だ」なんてレッテルを貼られたらかわいそうです。
※ 注 意姿勢崩れは、車いすの問題と座る方の身体の特徴の方がほとんどの原因を占めています。ここでは、もう少し良い姿勢を保てたはずなのに、早く姿勢崩れが起こってしまう原因を作っていることを指摘しています。 |
冒頭のような着座の介助方法をすると、椅子に深く腰掛けて姿勢も伸びていかにもよい姿勢で座っているように見えますが、お尻では大変危険なことが起こりつつあることを忘れないでください。
では、どうすればいいか、簡単です。自分ならどうしますか、間違いなく座ると同時に座り直しをするでしょう。
座っている方が自分で出来ないか、していないなら、介助者が座り直しをさせてあげるか、するように声掛け等で座り直しを促すことです。
座り直すと言うことは、左のイラストのように内部組織の歪みをある程度解消することです。完全に解消するのは無理としても、座り直しをしてない状態から比べるとかなり良い状態になります。
こうすれば、姿勢崩れを遅らせ、床ずれ発生の危険も低下します。
それでは次に、「座り直し」のやり方・方法を説明します。
●上体を右に傾け、左の坐骨を浮かす。上体を左に傾け、右の坐骨を浮かす。
介助者は利用者の後ろに立ちます。
利用者に腕を組んでもらいます。
介助者は利用者の脇の下から腕を通して手を前腕に添えるように置きます。指は伸ばします。決して利用者の前腕を握らないでください。
イラスト左側・・・・・この状態から介助者は身体を右横に倒し、利用者の上体が右横に倒れるよう誘導します。左側の坐骨が軽く浮いたなぁと思ったら元に戻ります。決して利用者の身体を浮かせようと引っ張り上げないでください。利用者の腕が押しつぶされ胸を圧迫し、息苦しくなって不快です。利用者の背筋が伸びる程度に軽く引き上げて止め、そのままの形で横に倒れれば、自然と左側坐骨が浮きます。
イラスト右側・・・・・今度は反対の左横に倒れて同じ要領で右側坐骨を浮かせます。浮いたら上体を元に戻します。
●車いすの肘掛けにつかまりお尻を浮かせる「プッシュアップ」の方法をしてもらいましょう。
利用者さんに腕の力があるならば、プッシュアップをしてもらいましょう。二つの方法をご紹介します。
イラストの左側は、両腕でからだを持ち上げお尻を浮かせる方法。
イラストの右側は、片肘を車いすの肘掛けに乗せ体重を預けるようにしてもう一方の手を突っ張らせて片方のお尻を浮かせる方法。
自発的にしない方もいますが、レクレーションの中に上手くプッシュアップに似た体勢をとらせるように仕向けるのも手です。それでもやってくれない時は、出来るのに出来なくしてしまっているのではないかと考えてください。
利用者の座っているその車いす、肘掛けが高すぎないかな。利用者が肩をあまり上げられなくて、肘掛けすら持てないのかな、よしんば持てたとして、力が入らないのかもしれない。足は床について踏ん張りが効くようになってるかな、などなと色々出来なくなる要因を探して解決しましょう。できる環境を整えることに注力してください。
座り直しではなく、「圧ぬき」する方法もあります。
圧ぬきとは、身体と接触物の間に手を差し込んで皮膚のツッパリを取り除く技法です。介助者は腕に体交・圧ぬき用グローブを付けて行います。
介助者は利用者の前に来て座ります。利用者の上体を少し横に傾けて、浮き気味になったお尻の下にグローブをつけた手を入れ、お尻のシワを伸ばすように撫でて引き抜きます。上体を戻して、今度は反対側を同じ要領で圧ぬきします。
何でも、やりっ放しは良くありません。きっちり最後まで気を抜かないようにしましょう。
「 神は細部に宿る 」
以上、介護術の伝導士こと、草野博樹でした。
最後までおつきあいくださり、ありがとうございます。
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店長の草野です(93秒)
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