車いすスリングシート、座面シートたわみの影響とは【vol.012】
スリングシートは、車いすの座面と背もたれに張ってあるシートです。
今回は、座面のスリングシートに注目して
シートのたわみが身体にどのような影響を与えるか、まとめます。
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●骨盤が左右に傾斜した時の身体の反応
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背もたれに寄りかからない椅子の座位姿勢を考えてみます。
上半身を支えているのはお尻と太ももですが
実際に支えているのは骨格の座骨と大腿骨です。
坐骨の二つの点で上半身の体重のほとんどを受けて支えています。
坐骨は骨盤です。
つまり、スリングシートの影響を最も受けやすいのは骨盤です。
シートがたわんでいると、
シートのどの位置に座るかで骨盤の水平度が変わります。
座位を正面から見た時、シートの中央に座れば骨盤はほぼ水平。
シートの右寄りに座れば、坐骨の左側が下がり骨盤は左下がりに傾斜。
シートの左寄りに座れば、逆に骨盤は右下がりに傾斜します。
車いすの座幅寸法が利用者の身体に合っていれば
極端に右に寄ったり左に寄ったりして座ることはないのですが
大きいサイズに小柄な人が座ると、
左右どちらかに寄って座ることが起こり骨盤に傾斜が生じます。
骨盤が傾斜すると身体はどんな反応をみせるでしょう。
骨盤の傾斜は一瞬で脊柱に次のような反応を与えます。
骨盤が右下がりに傾斜する ⇒ 脊柱が左側に湾曲する
骨盤が左下がりに傾斜する ⇒ 脊柱が右側に湾曲する
傾いた重心を引き戻すために、
傾いた逆の向きに脊柱が曲がって骨盤から上のバランスを調整しています。
これが重心のバランスを取る動き・反応のカウンターバランスです。
スリングシートのたわみは、骨盤の傾斜を生じさせ
脊柱の湾曲を引き起こします。
湾曲姿勢を保つため筋緊張となり、その姿勢が常態化すると
拘縮や骨格の変形につながるリスクがあります。
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●骨盤が前後に動いた時の身体の反応
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スリングシートの影響はこれだけではありません。
先程は、骨盤の左右の傾斜に注目しましたが
今度は、骨盤の前後の動きに注目した身体の反応を見てみます。
ちなみに
実は大腿が骨盤の前後の動きを抑えるのに多少貢献しているのですが
股関節が回転するので、しっかりと固定することはできません。
座位時の大腿部の役目は、骨盤を固定すると言うよりは
錘となってぶら下がり骨盤の位置が動かないようにしている
と考えた方が良いでしょう。
下肢切断の方の座位が安定しないのは、
大腿の働きがないことが要因になっています。
話を戻して、
骨盤は、坐骨の二点で立っています。
そのため前後に対して動きやすく不安定です。
一番起こりやすいのが骨盤が後方に倒れる「後傾」です。
座位の姿勢を保つために働く筋肉群を脱力した途端、後傾は起こります。
骨盤を起こして立てた状態「前傾」を維持するには
筋肉群の働きが欠かせません。
骨盤が前後に対して不安定な上、シート自体が揺れて不安定なため
骨盤の「前傾」を維持するのは筋力を要する行為です。
骨盤の前後の動きに対する脊柱の反応は、次のようになります。
骨盤が後傾する ⇒ 脊柱が屈曲する
骨盤が前傾する ⇒ 脊柱が伸展する
骨盤が後傾すると腰椎が後ろに傾き脊柱全体が後ろに倒れようとしますが
胸椎から上を前屈させてカウンターバランスを取ります。
これが脊柱屈曲の理由。
体力のない高齢者に限らず、
疲れてくると骨盤が後継して猫背になるのはこのためです。
また、骨盤を前傾すると重心が前方に偏るので後方に引き戻す動きとして
脊柱を伸展させてカウンターバランスを取ります。
これが脊柱伸展の理由です。
骨盤は大腿の位置によっても前後に動かされます。
大腿骨は骨盤と股関節で繋がっているので
大腿骨がどこに位置しているかで骨盤も影響を受けます。
シートがたわんでいると、大腿は膝から下の下腿の重みで
シートの中央に寄せられます。
大腿が内側に寄せられた位置にあると
骨盤を後傾させる力が生れ、後傾しやすくなります。
このようにスリングシートのたわみは骨盤に影響して
脊柱の形を変え、座位姿勢に影響していることが解かります。
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●スリングシートのたわみを補正する板
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シートのたわみをなくして姿勢の安定を図るための方法に
クッションの底に固い平板を挿入する方法があります。
素材はベニヤ板や樹脂で作られています。
板をクッションに挿入することのメリットは
骨盤の左右の傾斜が防げる=脊柱の側湾が防げる、ことです。
この方法は、座る位置が多少左右にずれても骨盤の水平は保たれます。
但し、クッションの厚み、車いす座面高・肘掛け高に注意が必要です。
クッションの厚みは、
坐骨が底付きして板に当たらない厚みを使用すること。
車いす座面高は、板を挿入したことで座面が少し高くなります。
かかとが床に着かなくなった、などの弊害が出ますので
車いすは座面高の調節機能があるものを使用しましょう。
肘掛け高さは、クッションの厚みを厚くしたり
座面が高くなることで高さを上げる必要が生じます。
肘掛け高さの調節機能のある車いすを使用しましょう。
クッションに挿入する板の中には、
体圧分散効果と骨盤の安定を高めた
お尻と大腿の形に沿わせた局面形状(=コントゥアー)をした板もあります。
これをクッションに挿入すると座った時にお尻の凹凸にフィットし
平らなクッションでも高機能なコントゥー型クッションに早変わりします。
お尻の横ブレが抑えられ安定が増します。
以上ここまで
スリングシートのたわみが座位に与える影響をまとめました。
スリングシートは折りたたむ構造には欠かせないのですが
こと「座る」に関しては、向いていないと言えます。