キャスター角が車いす走行性に与える影響【vol.191】

キャスター角とは?

キャスター角は、
車いすを真横から見た時(矢状面から観た時)の
キャスター軸が鉛直線に対して成す角度を指します。(下図)

鉛直線

┃ ┃
┃ ┃←キャスター軸
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃  \
┃    \
┃      \
┃        \
┃          ●←車軸

┣━┓90度
┃ ┃
┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━
走行面

 

上図の場合は
鉛直線とキャスター軸が平行な状態です。

この時、キャスター角はゼロとなります。

これに対して、

キャスター軸がお辞儀しているような状態
キャスター軸が前方に傾いた状態を
キャスター角をプラスで現します。

また、

キャスター軸がふん反り返っているような状態
キャスター軸が後方に傾いた状態を
キャスター角をマイナスで現します。(下図)

 

鉛直線



┃ +キャスター角
┃   ↓
┃ \
┃   \←前方に傾く(お辞儀)
┃     \
┃       \
┃         \
┃            ━━━━━●←車軸

┣━┓90度
┃ ┃
┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━
走行面

 

鉛直線           -キャスター角
↓               ↓
┃               /
┃            /←後方に傾く(反り返り)
┃         /
┃      /
┃   /
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃ ●←車軸

┣━┓90度
┃ ┃
┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━
走行面

 

既製品の車いすは
キャスター角ゼロが一般的です。

様々な調整機能を有した
モジュールタイプの車いすのように
キャスター角を調節可能にしているタイプもあります。

その理由は…。

キャスター角と走行性

キャスター角は直進性と旋回性に影響します。

キャスター角がプラス(+)だと、
まっすぐ進みやすいけれども
曲がりにくい車いすになります。

直進性は向上、旋回性は悪化します。

車いすを普通に漕いでも
比較的まっすぐに進むようになります。

一方、

キャスター角がマイナス(-)だと、
まっすぐ進みにくいけれども
曲がりやすい車いすになります。

直進性は悪化、旋回性は向上します。

車いすを普通に漕ぐと
前方が左右にふらついて
まっすぐ進むのが容易ではなくなります。

 

既製品の車いすが
キャスター角をゼロの中立点に設定している理由は

一般の方が使う上で
直進性と旋回性のどちらかに偏ることは好ましくないのが一つ。

それと、後で説明する
旋回時の車いす前方の上下運動がデメリットにあるからです。

直進性向上・旋回性悪化の理由

これが起こるのは
キャスター角がプラスの時です。

もう一度、先の図を思い出してください。(下図)

鉛直線



┃ +キャスター角
┃   ↓
┃ \
┃    \←前方に傾く(お辞儀)
┃      \
┃        \
┃          \
┃             ━━━━━●←車軸

┣━┓90度
┃ ┃
┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━
走行面

 

この状態で車いすに体重が乗ると
キャスター軸がぐるり360度旋回することは困難になります。

なぜなら、

180度旋回するには
車いす前方を持ち上げなくてはならないからです。(下図)

鉛直線




┃ ↑上に持ち上げる力が必要
┃ \
┃   \
┃     \
┃       \
┃         \
┃        ┃
┃        ┃←180度旋回するには
┃        ┃
┃        ┃
┃        ●

┣━┓90度
┃ ┃
┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━
走行面

 

キャスターには体重が乗っかっています。

車いすが方向転換するためには
車いす前方を持ち上げるだけの力を要します。
旋回は容易ではなくなります。

キャスターの状態は自然と
トレーリングポジションに落ち着こうとします。

よって
直進性が保たれるようになります。

直進性悪化・旋回性向上の理由

これが起こるのは
キャスター角がマイナスの時です。

またまた、先の図を思い出してください。(下図)

鉛直線      -キャスター角
↓            ↓
┃           /
┃         /←後方に傾く(反り返り)
┃       /
┃     /
┃   /
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃ ●←車軸

┣━┓90度
┃ ┃
┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━
走行面

 

この状態で車いすに体重が乗ると
キャスター軸がすぐに180度旋回しようとします。

このポジションはとても不安定です。

キャスターには上から体重が乗っかっているので
キャスター軸が旋回して
車いすの前方が下がって落ち着こうとします。(下図)

鉛直線



┃     体重
┃     ↓
┃           /
┃          /
┃         /
┃        /
┃       /
┃ ●━━━━━
┃     ↑180度旋回させようとする力が働く
┣━┓90度
┃ ┃
┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━
走行面

 

つまり、
車いすに体重が乗った時点から
キャスター軸は旋回し始めます。

車いすの前進においては
まっすぐ進みにくくなります。

曲がることは容易になります。

キャスター角を変えるメリット・デメリット

何がユーザにとって有益かを考えた時
キャスター角を変えることで直進性と旋回性が変化することが
結果的にユーザーのプラスに働くなら利用しない手は有りません。

例えば、

片麻痺の方が車いすを漕いだ時
まっすぐ進めなくて生活に支障をきたしているなら
キャスター角をプラスにすることを考える。

普通に漕いでもまっすぐ進むようになります。

ただし、
曲がる時に漕ぐ負荷が大きくなるデメリットが出ます。

それでも
全体としてメリットが得られるならば
試す価値はあります。

例えば、

狭いエリアで動きまわることの多いユーザーなら
キャスター角をマイナスにすることを考える。

左右に曲りやすくなるります。

ただしデメリットが伴いますね。

停止時もキャスターの状態によっては
車いす前方が自然と左右に少し動いてしまうこと。
動きだしの時に負荷が大きくなること。

恐らく
停止時はキャスターの向きが
前方を向いているはずなので

前進し始める時に
キャスターを180度旋回させるための力
車いす前方を持ち上げるための力が
負荷として掛かります。

 

キャスター角を
プラスにしても、マイナスにしても
相反する作用が発生します。

全体として良くなるのか、悪くなるのか
全体最適化の視点から直進性と旋回性のバランスを鑑みて
ユーザーの生活に合った調節が必要です。

 

他に注意すべき点は、

キャスター角を大きくするほど
旋回時に車いす前方の上下運動が大きくなる点です。

予め、ユーザーの了解を得ておきましょう。

今回のまとめ

キャスター角は車いすの直進性と旋回性に影響します。

キャスター角がプラス時は
曲がりにくいけれども、まっすぐ進みやすくなります。

キャスター角がマイナス時は
まっすぐ進みにくいけれども、曲がりやすくなります。

Follow me!