キャンバ角が車いす走行性に与える影響【vol.189】
キャンバ角とは?
キャンバとは英語の【camber】なので
カタカナ表記は『キャンバー』が正しいのかも。
でも
シーティングの世界だと
『キャンバ角』と言われますね。
ここではキャンバ角とします。
キャンバ角とは、
車いすを真正面から観た時の(前額面から観た時の)
駆動輪と鉛直線とが成す角度Aを指します。(下図)
鉛直線
|
|
| ┃ ┃
| /┃ ┃\
| / ┃ ┃ \
| / ┃ ┃ \
|A / ┗━━━━┛ \駆動輪
| / \
|/ \
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走行面
【車いすを前後方向から観た時】
上図は極端にキャンバ角を大きくしています。
この形、観たことありますよね。
そうです。
テニスやバスケット競技用の車いすです。
どうしてこんなにキャンバ角を大きくしているか
理由はこの後の説明で納得できますよ^^
先の図のように駆動輪上部が閉じている場合は
キャンバ角をマイナスA(-A)で現します。
逆の場合、駆動輪上部が開いている場合は
キャンバ角をプラスA(+A)で現します。(下図)
鉛直線
|
| ┃ ┃
|\ ┃ ┃ /
| \ ┃ ┃ /駆動輪
|A \ ┃ ┃ /
| \┗━━━━┛/
| \ /
| \ /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
走行面
【車いすを前後方向から観た時】
車いす駆動輪に意図してキャンバ角を付ける場合
一般的には、マイナスにします。
キャンバ角と走行性
駆動輪のキャンバ角は
車いすの直進性と旋回性に影響します。
自動車の前輪タイヤにも
わずかにマイナスのキャンバ角が付いています。
目視で分かるので正面から観てみてください^^
マイナスのキャンバ角を付けると
直進性と旋回性が良くなります。
まっすぐに進む、小回りの利く車いすになります。
一方でキャンバ角を大きくし過ぎると
欠点も生まれます。
キャンバ角がつくことのメリット・デメリット
主なメリットは以下の5点が挙げられます。
- まっすぐ進みやすくなる (直進性向上)
- 小回りが利くようになる (旋回性向上)
- 横倒れしにくくなる (安定性向上)
- 駆動輪を漕ぐ手が壁に当たらなくなる (安全性向上)
- 上肢駆動の協調運動がスムースになる (駆動性向上)
主なデメリットは以下の2点が挙げられます。
- 横幅が広がる (狭いところが通りにくくなる)
- 抵抗が増し転がる距離が短くなる
(駆動輪を漕いだ時車いすが重たく感じる)
肝心なのは
どうしてこのようなメリット・デメリットが生じるか
その理由です。
先ず、メリットの理由から説明します。
まっすぐ進みやすくなる、直進性向上の理由
直進性が向上する理由は
タイヤと走行面が接している時の接触面の形にあります。
接触面の形が「弧」になるからです。
マイナスのキャンバ角が付くと駆動輪が傾くために
接触面の形が弧を描きます。(下図)
↑
進行方向
/ \
| |
\ /
左駆動輪 右駆動輪
真上から観ています。
ちなみにキャンバ角がゼロ度の時は
下図のようになります。
↑
進行方向
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
左駆動輪 右駆動輪
接触面の形が弧を描くと
走行面とタイヤの摩擦が大きくなり
弧を描く向きにタイヤは曲がろうとします。
つまり
前進する時は
右駆動輪は左側に曲ろうとし
左駆動輪は右側に曲ろうとします。
バックの時はこの逆になります。(下図)
↑前進
┓ ┏
/ \
/ \
| |右駆動輪
\ /
\ /
┛ ┗
↓バック
前進・バックのいずれにしても
左右の駆動輪は中に中にぶつかる方向に進もうとします。
その力がお互いに打ち消し合って
まっすぐ進むように働きます。
走行面が凸凹してても
二つの駆動輪は中に中に進もうとするので
ある程度の直進性が保たれます。
これが直進性が良くなる理由です。
小回りが利くようになる、旋回性向上の理由
旋回する時
二つの駆動輪は進行する向きが逆になります。
キャンバ角が付いた駆動輪は
それぞれ逆方向に曲ろうとしているため
この力が旋回を助けてくれます。
時計回りに旋回する時を考えると
下図のようになります。
┓右側へ曲ろうとする力
/
/ \
| |右駆動輪
\ /
/
┗ 左側へ曲ろうとする力
左駆動輪は右側へ曲ろうとする力が
右駆動輪は左側へ曲ろうとする力が旋回を助けます。
これにより旋回がしやすくなります。
ここで重要なのが
質量中心の位置(重心の位置)です。
旋回性を良くするには
質量中心の位置を駆動輪側に近づけることです。
ただ
そうすると後方転倒リスクが上がるので
場合によっては転倒防止のための車輪を
後ろに設ける必要があります。
横倒れしにくくなる、安定性向上の理由
ズバリ、横に支持基底面が広がるからです。
テニスやバスケット競技用の車いすは
見るからに側方に対して踏ん張りが効く形をしてますよね。
駆動輪を漕ぐ手が壁に当たらなくなる、安全性向上の理由
漕ぐ手が壁に当たらなくなるのは
キャンバ角がある程度大きく付いている時です。
手より先に駆動輪の下部が壁に当たるので
手と壁の間にすき間ができます。
なので手が壁に当たらなくなります。(下図)
|壁
|
| ┃ ┃
| /┃ ┃\
| 手/ ┃ ┃ \
| / ┃ ┃ \
| / ┗━━━━┛ \駆動輪
| / \
|/ \
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走行面
キャンバ角が小さいと手は壁に当たります。
それでもキャンバ角がゼロの時と比べれば
多少は衝撃が軽くなりますよね。
上肢駆動の協調運動がスムースになる、駆動性向上の理由
ここの詳細は車いすの操作性の説明の時にします。
軽く触れておきますと
上肢駆動が自然で漕ぎやすいのは
上肢をハの字に広げて漕いだ時です。
試しに椅子に座って
上肢駆動の真似事をしてみてください。
キャンバ角ゼロだと
肩と上肢の動きは上下運動なります。
キャンバ角が付くと
上肢は肘を伸ばす曲げる運動になります。
上肢をハの字にして漕げるので
駆動輪への力の伝達がしやすく動きもスムースになります。
次は、デメリットの理由です。
横幅が広がるので狭いところが通りにくくなる
これは説明するまでもないですね。
抵抗が増し転がる距離が短くなる、駆動輪を漕いだ時車いすが重たく感じる理由
前進・バックの時は
タイヤと走行面の接する形が弧になります。
つまり
弧の形のまま前進・バックすると
前進・バックを妨げる摩擦が大きくなります。
なので
キャンバ角ゼロと比べると駆動輪を漕いだ時に
車いすが少し重たく感じます。
重たく感じると言っても
全く感じない方もいますし^^
それよりもメリットに挙げた効果を
大きく感じると思います。
今回のまとめ
駆動輪にキャンバ角を付けるメリットは5点。
- まっすぐ進みやすくなる (直進性向上)
- 小回りが利くようになる (旋回性向上)
- 横倒れしにくくなる (安定性向上)
- 駆動輪を漕ぐ手が壁に当たらなくなる (安全性向上)
- 上肢駆動の協調運動がスムースになる (駆動性向上)
駆動輪にキャンバ角を付けるデメリットは2点。
- 横幅が広がる (狭いところが通りにくくなる)
- 抵抗が増し転がる距離が短くなる
(駆動輪を漕いだ時車いすが重たく感じる)