シーティング「タイヤの直径が車いす走行性に与える影響」【vol.187】

第三章「人車一体の操作性について」

第4回目です。

「車いすの走行性」に影響する要因7つ、
1)質量中心の位置 (vol.186で済み)

2)ホイールベースの長さ

3)キャンバ角の有無

4)トウ角の有無

5)キヤスター角の有無

6)タイヤの直径・素材・弾性・空気圧・接地面積

7)走行面の状態
の中から、
今回取り上げるのは、6番の中の

タイヤの直径が車いす走行性に与える影響について

です。

前々回説明した1番「質量中心の位置」と

タイヤの直径は

走行性に与える関係性が強いので先に取り上げます。
▼タイヤの直径と走行性
直径が大きいほどよく転がり

直径が小さいほど転がりにくくなります。

例えば、
車いすからキャスターと駆動輪を外し

同じ走行面を、同じ力で転がしてみたとします。
遠くまで転がっていくのは駆動輪で

近くで倒れてしまうのはキャスターです。(下図)
スタート

┃→ →○キャスター

┃→ → → → → → → →○駆動輪

一つの車いすに

よく転がる駆動輪と

転がりにくいキャスターが同時にあることの理由は

走行性以外の旋回性にあります。
小回りが利くようにするためです。

小回りの必要がない車いす

例えばマラソン競技用の車いすは

走行性重視でキャスターは使用せず

直径の大きい車輪を前輪に使用していますよね。
▼直径が大きいほどよく転がる理由
直径が大きいほどよく転がり

直径が小さいほど転がりにくくなる。

その理由は2つあります。
一つ目の理由は、

直径が大きいほど回転モーメントが大きくなるから。
二つ目の理由は、

直径が大きいほど段差越え時の抵抗が少ないから。

一つ目の理由から詳しく説明します。
▼直径が大きいほど回転モーメントが大きくなる
物理的に説明すると

車輪を回転する力は「回転モーメント」と言います。
回転モーメントの大きさは

車輪の半径に比例するので
直径が大きいほど

回転モーメントが大きくなるんです。
つまり、
車輪の直径が大きいほど

回転モーメントは大きくなり

車輪の回転は長続きします。
逆に
車輪の直径が小さいほど

回転モーメントは小さくなり

車輪は回転を止めやすくなります。

この理屈は

次の方法で体感できます。
▼5円玉に糸を結んで回す
5円玉に糸を結んで手で回すと

回転半径の長さの違いが

回転の持続性にどう影響するか体感できます。

初めに

半径となる糸の長さを10cmにして

5円玉を手で水平に回します。
手を止めて固定し

5円玉の回転がとれ位続くか見てください。

すぐに回転が止まりますね。
次は

半径となる糸の長さを50cmと長くして

5円玉を手で水平に回します。
手を止めて固定し

5円玉の回転がとれ位続くか見てください。

すぐには回転が止まりませんね。
回転しようとする力が大きいのは後者の方です。

続いて二つ目の理由を説明します。
▼直径が大きいほど段差越え時の抵抗が少ない
走行面には少なからず凹凸があります。

凹凸を敢えて段差と呼びます。
段差は車輪が回転して前進する時の抵抗になり

段差越えをする度に車輪は

回転モーメントを奪われていきます。
車輪の直径が大きいと段差越えは楽になり

回転モーメントの減少も少なくて済みます。

理由は、
車輪が走行面と接する点Aと

段差と接する点Bの距離が長くなり

乗り越える傾斜角度が緩やかになるからです。(下図)

───A
段差
───────────────B───走行面

なので

車輪の回転は持続しやすくなります。

車輪の直径が小さいと
点Aと点Bの距離が近く

乗り越える傾斜角度が急になり

段差越えで回転モーメントが消費されます。(下図)

───A
段差
──────B────────走行面

なので

車輪は回転を弱めてしまいます。
▼質量中心が駆動輪寄りだと車いすはよく進む
前々回説明してなかった

質量中心の位置が駆動輪寄りになるほど

車いすがよく進むようになるのは

以上の理由によります。

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