キネステティクはケアの何を変えるか【vol.029】
「キネステティク」との出会いは、今から5年前の2008年3月、
日本キネステティク研究会・設立記念講演を聴いた時です。
●日本キネステティク研究会のHPはここから
http://www.myu.ac.jp/~jka/index.html
あの時、「ケアの質が変わる!」と予感したのを思い出します。
キネステティクを簡単に紹介しますね。
キネステティク【Kinaesthetik】とは、
ギリシャ語の「人の動き・運動」を意味する【kinesis】と
「感覚」を意味する【aisthesis】を合成した造語です。
1973年、
ドイツで重度心身障害児教育における
コミュニケーション手法として活用されていましたが、
1980年には、
EC諸国で認知症や意識障害のある患者のケア、
自力で動けない患者の体位変換や移動技術として
看護分野で応用されました。
日本では、2001年9月、
日本じょくそう学会学術集会の教育講演で初めて紹介されています。
●キネステティクの概念とは
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キネステティクの概念は、
介助する人・される人、それぞれに備わる「動きの感覚」を
非言語的コミュニケーション(接触)を通じて
一方通行な支援から、双方向な動きの同調を生むこと。
ボディメカニクスとは、全く違います。
ボディメカニクスは、人を物体のように捉え、
力学的に少ない力で重い身体を動かすテクニックであり、
キネステティクが言うところの一方通行な支援です。
対象者の機能維持・健康維持につながらないのが
決定的に違います。
ボディメカニクスの批判みたいになりましたが
そうではありませんよ(笑)
キネステティクは、動きを導いて引き出す・支援する、
これが根底にあります。
失われつつあった身体の動きを思い出してもらい
機能維持・健康維持につなげることが出来ます。
●キネステティクはケアの何を変える?
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キネステティク的支援で見られること、
触れあう中で、お互いが相手の動きを感じ取り、
まるでダンスを踊っているかの様な、
双方向な動きの同調が起こります。
介助される側は、本来の自然な動作が引き出され、
自分で動いていると感じることが出来ます。
面倒を掛けている、申し訳ないなど、精神的負担は軽減され、
されるがままに動かされている無気力感・喪失感がありません。
支援する側は、相手の負担にならない支援が提供でき、
自身の身体の安全が守れる。
腰痛の心配もなくなります。
自立した生活・活動を他者に委ねないといけない状態とは
排泄のケアを委ねることと同様、人の尊厳に関わる事態です。
たとえ、思うように、自由に動けなくても、
出来れば自分で動きたいと願う気持ちがあって当然です。
それは無視できません。
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キネステティクで変わるもの、それは
・人の尊厳であり、
・相手を良く観る、観察能力の向上であり、
・対象者の潜在能力を引き出す力であり、
・支援者身体の身体の安全です。
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出来ている動きを奪わない、あくまでサポートに回る
この立ち位置を見失わないようにしたいものです。
身体を動かしているのは脳です。が、
動きの感覚によって脳が動かされている面は否定できない、
と言います。
まだ、動物実験の段階とは言え、
「動きの感覚」を情報として脳に与え続けると
記憶の入り口と言われる海馬(かいば)の、神経細胞を作る機能が
活性化することもわかって来ました。
これはつまり、身体の動きが脳に影響を与え、
ひいては、心にまで関わる可能性がある、ということです。
そう考えると、
可能な限り身体を動かすことの意義が分かりますよね。
●日本キネステティク研究会のHPはここから
http://www.myu.ac.jp/~jka/index.html