シーティング「肘掛けの高さを決める」【vol.180 】
シーティング第二章「人と車いすの寸法関係のこと」
第7回目です。
今回のテーマは「肘掛けの高さ」です。
肘掛けの高さを決める基本式は
(座位肘頭高+2cm+クッション厚)
です。
では、
+2cmする理由と
+クッション厚する理由を説明します。
先に
+クッション厚する理由から説明します。
▼+クッション厚する理由
背もたれ高さの所でも説明した通り
クッションの厚みを足す理由は
見かけ上、
肘の高さが厚み分高くなるからです。
車いすはクッションを必ず使用する
これを原則としています。
なので
必ず式にはクッション厚を加えます。
ただし、
クッションの厚みに注意が必要です。
例えば、
クッションの厚みが8cmでも
加算するのは8cmではありません。
クッションは座れば沈み込みますので
丸々8cmは高さが上がらず
実際の高さは4cmのアップだったりします。
ですので式に加算するクッション厚は
実際に高くなる4cmとします。
車いすを自分専用にオーダーする時は
使用するクッションを先に決めないと
肘掛け高さが決められません。
続いて+2cmする理由です。
▼+2cmする理由
これは
上肢の重量を肘掛けに移す
ためです。
「重量を○○に移す」は
これまで何度か登場しているキーワードです。
大切なことなので確認します。
一旦、
+2cmする理由は置いときますね。
座位肘頭高より高さのある
肘掛けの上に肘を乗っけると
肘掛けが下から上肢を持ち上げてくれます。
上肢の重量の何割かを
肘掛けが受け持ってくれている状態です。
こういう状態を指して
上肢の重量を肘掛けに移す、と言います。
すると
肩にぶら下がる上肢の重みが軽く感じられ
身体への負担が軽くなります。
身体の負担とは
体幹固定筋の負担です。
肩にぶら下がるおもりが減るので
脊柱伸展の姿勢を維持するために働く
筋肉群の負担を軽くできます。
座位肘頭高より高さのある肘掛けには
こうした効果があります。
それに加えて
体幹前屈を抑えるつっかえ棒の役割も
果たしています。
しかし、
高すぎれば弊害が生じます。
脊柱を過度に伸展したり、
肩の位置が挙がってしまうことで
頭部の動きや上肢の動き、身体の動きが
制限されるようになります。
物事には程度があります。
身体の負担が軽くできて
身体の動きを妨げない高さ。
それが「+2cm」で落ち着いているわけです。
▼算出式にシートの「たわみ」は含まれない
ここで注意すべきは
スリングシートの「たわみ」です。
スリングシートは体重がかかるとたわみますね。
肘掛けの高さの算出式、
(座位肘頭高+2cm+クッション厚)では、
スリングシートの「たわみ」は考慮されていません。
本当なら
肘掛けの高さの算出式は
(座位肘頭高+2cm+クッション厚)-(座シートたわみ分)
とすべきです。
スリングシートがたわむ弊害は良く知られているので
初めからたわむような設計にはしませんが
折りたたみ可能にしてスリングシートを使用するとなれば
たわみゼロはあり得ません。
車いすをオーダーメイドする時は
注意が必要です。
▼肘掛けの高さ調節機能は必須
こうしてみると
実際にユーザーが車いすに座ってから
肘掛けの高さ調節ができる方がいいですね。
ちなみに
人体寸法データベースでみると
(AISTデータベース1991-92より)
高齢者の座位肘頭高は、
男性平均⇒235.2mm
女性平均⇒196.0mm(男性比-39.2mm)
女性の方が約4cm低いわけです。
これだけ寸法差があるのですから
肘掛けの高さ調節機能は必須ですよね。
現在発売の車いすに
肘掛けの高さ調節機能ありタイプが増えたのも
納得がいきます。
▼何を目安に肘掛け高さを調節するか
欲しい結果は
腕が軽くなる感覚を得て
体幹の負担を軽くして
脊柱伸展座位姿勢の維持に貢献することです。
肘掛け高さの決定の目安をポイントは
算出式よりもユーザーの見た目
肩の位置を観て決めるのが良いでしょう。
上肢をブラーんと下に垂らした時の位置を
基準ゼロにして
肘掛けに腕を乗せた時
肩の位置が2cm上がる程度。
これを目安にします。
車いすの高さ調節機能は
2cm刻みの調節が多いですね。
ぴったりには行かなくても
ある程度の状態には出来るはずです。
そして、
首周りの筋肉の緩みを触って確認します。
筋肉が柔らかく緩んでいれば
上肢の重量が肘掛けに移っている証拠です。
後は、
頭部が自由に動かせる状態にあれば
問題はないでしょう。
▼広い支持面で支える
車いすの肘掛けは
幅が狭く乗せた腕が落ちやすい。
かと言って
腕が安定する位の幅広にすると
今度は駆動輪を漕ぐ時
上肢に当たり、動きの妨げになります。
闇雲に肘掛けを大きくは出来ません。
車いすユーザーが
肘掛けにどのように肘を置いているか
観察してください。
肘掛けにクロスするように
前腕を乗せていますよね。
テーブルの上に腕を乗せる時も
同じような格好で前腕を乗せています。
この上肢の格好が自然なのですね。
だとすれば
肘掛けは身体の前にも必要であることが分かります。
広い支持面を作って上肢を支えるべきですね。
それを可能にした福祉用具があります。
車いす用テーブルや
太ももの上に乗せるクッション。
これらを上手く活用したいところです。