シーティング「シート角度とバックサポート角度」【vol.183】
シーティング第二章「人と車いすの寸法関係のこと」
第10回目です。
身体寸法から導かれる
車いす主要寸法の説明は
前回で一通り終えました。(以下の6箇所)
1)座シート幅
2)座シート奥行き
3)背もたれの高さ
4)肘掛けの高さ
5)座面の前座高
6)フットサポートの調節範囲
しかし、
肝心なことに触れていません。
それは
「座面の角度」と「背もたれの角度」です。
呼び方は、
JISとシーティング用語にならい
それぞれ
「座面の角度」→「シート角度」
「背もたれの角度」→「バックサポート角度」
と呼ぶことにします。
今回のテーマは、
「シート角度とバックサポート角度」です。
始めに
シート角度とバックサポート角度が
どこの角度を指しているか確認しておきます。
下図をご覧ください。
背もたれ
/
/
/
/
座面 /
\ /
\ /
\ B /
\ /
A \ /
\/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄水平線
シート角度とは、
水平線と座面の成す角度Aのことです。
バックサポート角度とは、
座面と背もたれの成す内角Bのことです。
▼国内主要メーカーの設計値
標準型車いすの設計仕様を調べて見ました。
主要車いすメーカー4社は
下表の通りでした。
┏━━━━━┳━━━━━┳━━━━━━━━━┓
┃メーカー名┃シート角度┃バックサポート角度┃
┣━━━━━╋━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃カワムラ ┃ 約3度 ┃ 95度 ┃
┣━━━━━╋━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃日進医療器┃ 約3度 ┃ 96度 ┃
┣━━━━━╋━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃松永製作所┃ 約3度 ┃ 95度 ┃
┣━━━━━╋━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃ミキ ┃ 約3度 ┃ 95度 ┃
┗━━━━━┻━━━━━┻━━━━━━━━━┛
バックサポート角度は明確な設計値です。
シート角度は、
各社とも(前座高-後座高)で設定していて
具体的数値で角度設定していません。
なので、私が算出しました。
算出に当たっては代表値を用い、
(前座高-後座高)2cm、
座面奥行40cmで算出しています。
標準型車いすにおいては
・シート角度は→→→約3度、
・バックサポート角度は→95度と
ここら辺りの数値に
落ち着いていることが分かりました。
(※多少のばらつきがあることをお断りしておきます。)
なぜ、
この数値なのでしょうか。
人間工学の見地から
導かれた数値であることは
間違いないと思われます。
その根拠となるデータなり文献は
私の手元にないので
確かなことは言えません。
が、
ここに参考となる数値をご紹介します。
▼座位姿勢の7つの型
昭和44年(1969年)、
千葉工業大学・小原次郎教授らは
人体のデータ計測値を元に
椅子に座った姿勢を
椅子の使用目的によって
基本的な7つの型に分けられる、
と発表しました。
※人体計測値の調査は昭和42年(1967年)実施。
被験者は成人男子と女子を合わせて約千人。
それが広く受け入れられ
椅子の設計時の「型紙」のような
役割を持つようになりました。
それ以来、
椅子だけにとどまらず
新幹線、航空機、自動車の座席設計指標として
長く用いられてきたのです。
7つの型の中から
シート角度、バックサポート角度に関係する数値を
抜粋してまとめた表をご覧ください。
┏━━┳━━━━━━━┳━━━━━━━━━┓
┃型 ┃座面の傾斜角度┃背もたれの傾斜角度┃
┣━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃0型┃ -3度 ┃ 93度 ┃
┣━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃1型┃ 0度 ┃ 93度 ┃
┣━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃2型┃ 4度 ┃ 100度 ┃
┣━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃3型┃ 6度 ┃ 105度 ┃
┣━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃4型┃ 10度 ┃ 110度 ┃
┣━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃5型┃ 14度 ┃ 115度 ┃
┣━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃6型┃ 23度 ┃ 127度 ┃
┗━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━━━┛
簡単に「型」の特徴を説明しておきます。
0型~3型までは
作業や会議用に適した椅子。
4型~6型は
休息、リラックスを重視した椅子です。
0型ほど座位時間は短く
6型へ向かうほど座位時間が長い椅子
と言えます。
この数値を判断する上で
注意すべき点があります。
座面の傾斜角度≠シート角度
背もたれの傾斜角度≠バックサポート角度
だと言う点です。
値は、椅子に腰かけた時に
身体が座面と背もたれのクッションなどに沈んで
最終的に落ち着いて安定した姿勢の時の値です。
実際の椅子や車いすに座ると
シートのたわみやクッションが影響し
シート角度やバックサポート角度が
設計値とは違ってきます。
角度が大きくなることもあれば
小さくなることもあります。
ほとんどの場合は角度が増すでしょう。
これを見越して角度の設計値を
決める必要があります。
ここで
先の国内主要メーカーの設計値を見てみましょう。
標準型車いすの設計値はこうでした。
・シート角度は→→→約3度、
・バックサポート角度は→95度
実際に座れば角度が増すと考えると
狙っている角度は、
2型ではないかと推察できます。
座面に座って、約3度→4度になる
背もたれに寄りかかって、95度→100度になる
▼2型の椅子は「どんな使用目的の椅子」の型か
0型~3型は作業や会議用椅子の指標です。
0型から3型へ向かうに従い
座面の傾斜角度も背もたれの傾斜角度も増し
座席自体の後方傾斜が大きくなっていますよね。
0型と1型は傾斜が小さく
上体が垂直か前傾気味で座るようになります。
背もたれに寄りかかる休息の要素が少ない。
車いす走行中の振動や揺れで
上体が前に倒れないように
体幹固定筋を働かせる必要があります。
移動中ずっと
緊張しているのは嫌ですね。
2型以上であれば
背もたれに寄りかかっていられる
休息の要素があります。
3型以上だと休息の色が強いので
2型を選択したのではないでしょうか。
これは私の勝手な考えです^^
座位姿勢の不安定な方は
より休息要素の高い
3型の車いすを選択したほうが良いでしょう。
3型までであれば作業も可能です。
実際に3型の車いすもありますね。
3型でも座位が不安定な方は
4型以上になります。
4型以上は休息がメイン。
リクライニング機能付きです。
それでも不安定な方は5型以上の
ティルティング機能付きですね。
背もたれの傾斜角度が110度を超える
5型以上の車いすの場合
頭部を支える頚椎への負担が大きくなります。
ゆえにサポート用の
ヘッドレストが欠かせません。
以上
シーティング第二章
「人と車いすの寸法関係のこと」は
ここまでです。
次回から
第三章「人車一体となった操作性のこと」
に入ります。