骨量減少には順番がある【vol.102】
重力が体に与える影響を探る、5回目です。
今回は「骨量が減少する」です。
▼骨量減少の速さ
普通に暮らしていても
加齢とともに骨量が下していきます。
骨量ピークの20~30代以降
年間1%程度ずつの減少をみせます。
それに対し、
宇宙滞在中の宇宙飛行士のそれは
個人差はあるものの
平均で一週間当たり2~3%減少。
もの凄い速さで減少していきます。
この計算でいくと
1年で骨量がゼロになりますが(笑)
そんなことはなくて
宇宙滞在5~6か月もすると
正常化して落ち着きます。
と言っても、骨量は相当低下した状態です。
普通の男性の場合だと
80歳の時点で、30代の約半分にまで
骨量が低下すると言われています。
女性の場合はもともと
男性より骨量が少ない上
ホルモンの関係で
加齢とともに骨量が減少しやすい。
ですから、
ピークを迎える20代までに
十分な骨量を蓄えることが大切です。
若い時、全く運動らしい運動はしなかったとか
ダイエットに精を出していた人は
大変な老後を迎える羽目になります。
▼骨が果たしている役割には…
・骨格として体を支える
・骨髄で血液を作る
・体内のカルシウムバランスを取る(カルシウム代謝)
の他にも
体内で必要な微量元素のバランスを取ること
などがあります。
カルシウム代謝とは
血液からカルシウムを取り込んで骨細胞を作ったり
骨細胞を壊してカルシウムにして血液に戻す
代謝のことです。
口からのカルシウム摂取量が足りないとか
摂取量は足りてるのに上手く吸収されないとかで
血液内にカルシウムが不足した状態になると
骨を分解して血液に戻すことをします。
▼骨量が減少していく原因はこれです。
骨を作る働き(造骨)より、
骨を壊す働き(破骨)が優っている。
(造骨量)-(破骨量)が
常にマイナス状態だから。
造骨量が下がって、破骨量が増えれば
骨量減少に更なる拍車がかかりますね。
骨量減少の要因は次の通り。
・ホルモン分泌の変化
・食べ物からのカルシウム摂取量が減る
・腸の働きが低下しカルシウムを吸収しにくい
・骨への刺激が減る(運動不足などによる)
があります。
▼ホルモン分泌の変化
宇宙滞在中は睡眠不足になります。
よい睡眠が取れないため
成長ホルモンの分泌量が減っているところに
ストレス増加でコルチゾールの分泌量が増える。
なので、十分な骨量が保てない。
▼食べ物からのカルシウム摂取量が減る
このあたりは宇宙食をきちんと摂取すれば
さほど問題とはならないはず、なのですが
宇宙滞在中、ほとんどの宇宙飛行士が
食欲がなくなると言います。
そのせいで摂取量自体が不足気味になる。
▼腸の働きが低下しカルシウムを吸収しにくい
カルシウム吸収にはビタミンDが欠かせません。
そのビタミンDの活性が低下するので
腸からのカルシウム吸収効率が下がります。
経口摂取量の1/2~1/3しか吸収されない
と言われています。
理由の一つに紫外線を浴びられない点があります。
宇宙船の窓には皮膚がん予防のため
紫外線を遮断するフィルムが張られています。
最低でも1日15分は太陽光を浴びるのが
ビタミンDを活性化するには
好ましいと言われますね。
▼骨への刺激が減る(運動不足などによる)
骨細胞は重さを感じる細胞と言われています。
ですから、重さを感じれば感じるほど
丈夫でしなやかな骨を作ろうとします。
骨が感じる重さは2つあって
重力の負荷と、筋肉に引っ張られる負荷です。
無重力下では重力の負荷はなく
筋肉に引っ張られる負荷も弱くなります。
必要以上に骨を丈夫に保つ必要がないので
骨量が増えない
むしろ、減少させていく方向に作用してしまう。
▼骨量が減少していく骨と箇所には順番がある。
高齢者がつまづいて転倒
大腿骨頸部骨折や脊椎圧迫骨折が
多くなりますよね。
これにもちゃんと理由があります。
宇宙飛行士の骨量減少から分かったことは
減少する骨に順番があること。
真っ先に減少するのは体重を支えている骨。
下肢の大腿骨と脛骨(けいこつ)
脊椎で骨量減少が顕著にみられたんです。
筋肉と同じで、
一番貢献していた箇所が
一番最初に楽を覚えてしまうんですね。
更に同じ大腿骨でも
真っ直ぐな骨幹部より
股関節にはまる頭部の方が減少が著しかった。
宇宙滞在4~5カ月の宇宙飛行士8名の
骨密度の低下は
骨幹部4%以下に対し、頭部12%。
実に3倍の開きがありました。
これだけの違いが出れば
つなぎ目の頸部で骨折が起こりやすいのは
容易に想像が付きますよね。
下肢や脊柱に比べ
上肢の骨量はほとんど減少していないんですね。
前回の筋肉でもお話しした通りで
宇宙滞在中も作業で上肢を動かしていること
地上でも体重を支える役目ではなかったことなどが
理由と考えられています。
骨には2つのタイプがあって
スポンジ状の海綿骨(かいめんこつ)と
骨密度の高い緻密骨(ちみつこつ)。
大腿骨頭部は海綿骨で
骨幹部は緻密骨になってる。
この差も影響しています。
もともとスカスカの海綿骨の方が
骨量減少の影響は大きいですよね。
脊椎も海綿骨です。
ですので、尻もちをついた瞬間に
潰れてしまい易いんですね。
それに対して前腕・上腕の骨は緻密骨なので
大腿骨や脊椎に比べれば
転倒しても骨折しにくいという訳です。