車の運転シートにみるシーティング【vol.124】
シーティングの観点から
身の回りにある「椅子」を
掘り下げて見てみよう!
三回目です。
今回は、自動車の運転シートです。
後で、普段あなたが乗っている車の
運転シートをよーく観てくださいね。
▼先ず、座面の形を観てください。
どんな点に気付きますか?
(問1)
座面に角度が付いていますね。
背もたれ側が低く、前方が高くなっていますね。
どうしてでしょうか?
(問2)
両サイドが土手のように盛り上がっていますね。
どうしてでしょうか?
(問3)
座面の前がまーるく下がっていますね。
どうしてでしょうか?
▼次に背もたれの形を観てください。
(問4)
背もたれの面が緩やかにカーブしていますね。
一番下の座面とのつなぎ目辺りは引っ込んでいます。
腰の辺りは多少盛り上がり、背中の辺りは沈んでいます。
どうしてでしょうか?
(問5)
両サイドに土手のような盛り上がりがあります。
座面と一緒ですね。
どうしてでしょうか?
(問6)
その盛り上がりの形を見てください。
上に行くほど、つまり頭に近くなるほど
盛り上がりが無くなっていますね。
どうしてでしょうか?
では、一つずつ観ていきましょう。
▼(問1)座面に角度が付いている理由
車いすでも座面に角度が付いています。
電車のシートも角度が付いています。
理由は同じです。
角度を付けるとお尻の前滑りが抑えられるから。
角度を大きく付け過ぎると
立ち上がる時、太ももの負荷が大きくなります。
立ちにくくなります。
前滑りしにくくて立ち上がりに支障が出ない
程度の角度が付いています。
▼(問2)両サイドが土手のように盛り上がっている理由
カーブを曲がる時の遠心力で
お尻がシート上を滑って動かないように
せき止めるための楔です。
▼(問3)座面の前がまーるく下がっている理由
ブレーキ、アクセル、クラッチ操作で
太ももの裏(膝裏近く)が圧迫を受けないための逃げです。
▼(問4)背もたれの面が緩やかにカーブしている理由
背もたれに体を預けると
自然と背筋が伸びた姿勢で座れるようにするためです。
脊柱カーブに沿った曲面に寄りかかると
脱力しても曲面に習うように
背筋の伸びた姿勢になります。
これが体幹固定筋の負担を軽くして
疲労を抑えてくれます。
座面に近い部分が引っ込んでいる理由は
遊び(空間)を作るため。
遊びがあるおかげで深く座ることができます。
深く座れれば骨盤が立ち背筋は伸びます。
骨盤前傾と脊柱伸展はセットで起こります。
骨盤を立てているのは背もたれのふくらみ部分です。
ここが仙骨に当たり、骨盤を押し立てています。
腰椎を押しているわけではありません。
ブレーキやクラッチを強く踏み込んだ時
ここのふくらみが踏み込みの力を引き出します。
背もたれに寄りかかっても
肩甲骨の辺りから上は背もたれに当たっていませんね。
ヘッドレストにも頭は当たっていません。
これは胸椎から上の部位の
後方への動きを抑制しないためです。
少しは後ろに動ける遊びを作っています。
とは言え、万一の事故の際には
身体と頭部を支えなくてはいけません。
しっかり支えることと遊びを作ること
二つのバランスを持たせていますね。
▼(問5)両サイドに土手のような盛り上がりがある理由
座面シートの盛り上がりと同じ理由です。
カーブの際、遠心力で上体が放り出されないよう
つっかえ棒的役目を果たしています。
安定した支えは、骨格を支えることで得られます。
脇腹には胸郭の様な支えられる骨格がありませんね。
なので脇腹全体を包むような優しい支えが要る。
点で支えるような支えは肉に食い込んで痛いだけ。
広い曲面で支えるのが良い。
それがこの形。
上半身が左右に傾くか傾かないかは
腰椎をまっすぐ立てられるかどうかにかかっています。
▼(問6)サイドの盛り上がりが頭に近くなるほど無くなっている理由
肩の動きを妨げないための逃げです。
ここの盛り上がりがないと
腕を後ろに引きやすくなります。
上半身の左右の支えは胸郭の下までで十分です。
今回は運転シートの形を重点的に見ました。
シーティングのエッセンスを理解しやすいのが
形だったからです。
しかしながら
車種が違えば当てはまらない項目もありますよ。
理由は、運転シートの形は
その車の用途によって変わるからです。
何を重視するかの違いです。
車いすのシーティングも同じ。
だからこそ「何のために」が大事。
「何のために」が抜け落ちた座位姿勢づくりは
戦略のない戦術に等しいのです。